*本内容は2018年2月作成時のものです チョウ目部会
IRAC:Insecticide resistance action committee (農薬メーカー団体のCrop Life International(世界農薬工業連盟)の内部組織で,殺虫剤抵抗性発達の回避・遅延策を推進する専門技術委員会) Version:1802 「今後の薬剤抵抗性管理への期待」 一般社団法人日本植物防疫協会 技術顧問 野田隆志 害虫の薬剤抵抗性発達リスクを減らす方策としてローテーション散布が提唱されて久しいが、具体的にどのように考えれば良いのかについて明確に解説した資料はこれまでほとんどなかった。その意味で、本資料は現場の技術者や生産者がこの技術を考えるための啓発材料として大変有意義であると考える。 ローテーション散布の実効性には、対象害虫の年間世代数などの生態的特性やほ場内外に生息する感受性個体の密度など様々な条件が影響する。また複数の病害虫が同時に発生する場合、それらに対する薬剤の使用にも留意する必要があるため、現場の指導者には原理の理解と適切な防除手段の選択が求められる。薬剤抵抗性管理の基本は、抵抗性遺伝子を持った個体をほ場から如何にして減らし、かつ低密度に維持するかにある。したがって、ローテーションに組み込める薬剤の種類が限定される場合は特にそうであるが、最終的には農薬以外の防除手段も取り入れたIPM体系の中で薬剤抵抗性管理を考えて行く必要があるだろう。本資料を契機として、ローテーション散布への理解がより深まり、活用に向けた現場での議論が盛んになることを期待したい。
薬剤抵抗性とは 同一の殺虫剤を連用すると,これまで有効であった薬量・濃度で防除できなくなる場合があり,その現象を抵抗性が発達したといいます。そして,殺虫剤の効かなくなった害虫は抵抗性害虫と呼ばれます。 抵抗性は遺伝的なものであり,自然界の多様性の中で抵抗性遺伝子をもともと持っていたごくわずかな個体が同じ系統の殺虫剤を繰り返し散布された環境で選抜されて生き残り,その子孫が増えた結果生じると考えられています。 特に,ライフサイクルが短く増殖率の高いハダニ類,アザミウマ類,アブラムシ類,コナガのような害虫に対して,同一系統の殺虫剤の散布回数が多い場合,抵抗性発達のリスク が高まると考えられています。 『同一薬剤の連用による抵抗性発達の模式図』
ジアミド系殺虫剤とは ジアミド系殺虫剤(フルベンジアミド、クロラントラニリプロール、シアントラニリプロール、シクラニリプロールのいずれかを含む農薬)は、昆虫のカルシウムチャネルの1種であるリアノジンレセプターに作用して筋肉を収縮させる新規作用性を持ち、チョウ目害虫を中心として各種害虫種に対して優れた効果を示します。
IRAC作用機構分類を活用したローテーション - ある殺虫剤に抵抗性が発達すると,その殺虫剤が効果を発揮できないだけでなく,類似した化学構造を有する他の殺虫剤も十分な効果を示せなくなる現象(交差抵抗性)がしばしば認められます。これは類似した化学構造を有する殺虫剤は通常同じ標的分子に同一の作用機構で作用するためと考えられます。そのため,IRACは化学構造上,関係の深い殺虫剤が識別できるよう,作用機構に基づきグループ化し,殺虫剤分類表を作成しています。
- IRACの作用機構分類に基づき殺虫剤をローテーション使用すれば,少なくとも同一作用機構をもつ薬剤の連用を避けることができ,その作用機構に対する抵抗性の発達リスクを低減させることができるとIRACは提唱しています。
殺虫剤の作用機構による分類(IRAC 2015年7月)
ローテーションの例 作用機構分類に基づいたローテーション 『IRAC作用機構分類を活用した殺虫剤抵抗性管理のモデル』*
よくある誤ったローテーションの例 薬剤ローテーションをしているつもりでも、やり方によっては抵抗性発達リスクが高いこともあります。 上記のような、「誤ったローテーション」が起きる主な原因は、次のような、2つの理由が主に考えられます。 抵抗性発達の危険度が高い害虫に対して、 ① 多くの登録剤があるのに、特定の作用グループの剤でしかローテーションしていない場合。 ② 当該作物に対して登録ある薬剤が限られている場合(マイナー作物など)。 そこで、抵抗性発達リスクを減少させる為に、IRACは対象害虫の世代を考慮したブロック式ローテーションを提案しています。
世代間連用を避けるブロック式ローテーションの例 できるだけ多くの異なる作用グループの薬剤を使うことが抵抗性管理には重要です。使用可能な薬剤の数が限られていても、害虫の世代を考慮する(連続した世代に連用しない)ことで、効果的な抵抗性管理が可能です。
殺虫剤作用機構による分類(2016年11月) - チョウ目害虫に有効な殺虫剤には様々な作用機構を有するものがあります。
- 同じ作用機構を有する殺虫剤の連用は、抵抗性の急速な発達を招くリスクがあります。
- グループ内には異なるサブグループが含まれる場合があります。
ジアミド系殺虫剤の商品名と取扱いメーカー
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